買い物に出掛けようとしたら、見知らぬ人間がいた。
またチェシャ猫の奴が勝手に連れてきたのかと思ったけど、どうやら自分から落ちてきたらしい。
だとしたら…拾って、この国の説明をするのは僕の役目。



もう、増えるはずのない住人
役は…すべて埋まっている

あとは、あのアリスが最後の扉を開けてくれれば…それで
THE END.










「…あぁ、もう!なんでこんな奴っ!!」

お茶を飲んでる間にさっさと説明して追い出そうと思ったのに、急に泣き出したと思ったら、今度はでかい声をあげてぶっ倒れた。
別にそのままにしておいても良かったけど、こいつが倒れたのは食器棚の前。
そこには彼女のお気に入りのカップが入っている。



ようするに、邪魔、だ。



「ったく、おい、お前」

倒れてる奴の頬を軽く叩く。
けど、真っ白な顔は叩く動きに揺れるだけで、ぴくりとも動かない。
いらいらしながら、今度は少し強めに肩を揺らす。

「おーい、起きろよ」

「……」

「お前が起きないと、何も出来ないだろ」

「……」

「名前をつけなきゃ、お前を追い出すことも……」

ゆらゆら肩を揺さぶりながら話していると、話の途中で、瞼が震えた。

「ようやく起き…………っ!!!

震えた瞼の下から現れた瞳の色に、心奪われる。





その目は、空を映したような…青





………アリス

ぼそりと呟くが、慌てて頭を振る。



そんなわけない!
アリスは…メアリアンは、僕とずっと一緒にいるじゃないか。

新しいアリスも、いる…し、こいつは違う。



瞳の色が…アリスと同じ、ただ、それだけだ。










頭ではわかっちゃいるけど、もう一度、確認するよう…その目を覗き込む。

開いたままの目からは、今も絶え間なく涙が零れて頬を濡らしている。
涙でにじんだ瞳は、綺麗な青をくすませていて…その目は、記憶の中の彼女に酷似していた。



――― ボクに、タスケテ…と言った、アリスに…










こいつはアリスじゃないっ!


どこかで叫ぶ、僕がいる。



だけど、アリスと同じ瞳が…曇っているのをみたくない。

どこかで、そう呟く僕がいる。



青い空が曇っていたら、花も育たない…
まだ、名前をつけていない…あの、赤い花も










零れる涙を、ポケットから取り出した柔らかなハンカチで拭いながら、優しく問いかける。

「……ねぇ、教えてよ。何が君を苦しませてるの」

「………」

「僕が、それを消してあげる。楽にしてあげる」

「………」



アリスじゃない、女
僕の大好きなアリスとは、似ても似つかない女




「言えないなら、示すだけでいい」



さっきまでは、僕を見ていてくれただろ?
動く瞳に、僕を映してくれていたろ?





――― アリスと同じ、青い瞳






「君がここへ来た原因…辛い記憶、僕が全部…全部、消してあげる」

その言葉に、彼女の視線が動いた。
それが示すのは、手につけられたブレスレット。

自分で取ろうと思えば、たやすく取れるもの
けれど、それが出来ないのは…



それが、とても重いものだから。



「…消してあげるよ、全部」

力を入れれば折れてしまいそうな細い腕。
それよりももっともっと細い…ブレスレット。
引きちぎるのは簡単だけど、それじゃあ意味がない。

「壊しちゃ…意味がないんだ」

そう呟くと、僕は彼女の腕につけられたブレスレットに…手を、置いた。





Are you Alice? - blot. #04

BACK